坂口健太郎、世界的人気の先へ――最新作の葛藤と語り尽くした本音
坂口 健太郎 インタビュー――静謐な佇まいの奥に、確かな熱量を湛えた眼差しがある。スタジオの重い扉が開き、柔らかな笑みを浮かべながら現れた彼は、周囲の空気をふっと和ませた。モデルから俳優へと転身を遂げて以来、数多くの話題作で観客を魅了し続けてきたが、ここ数年の躍進ぶりには目を見張るものがある。スクリーンに映る彼の背中には、以前にも増して深みと物語が宿っている。
日本国内での確固たる評価に甘んじることなく、海外の制作陣とタッグを組むなど、挑戦のフィールドを軽やかに広げてきた。数々の濃密な現場を経験してきた彼が、今何を感じ、どこへ向かおうとしているのか。今回の坂口 健太郎 インタビューを通じて浮かび上がってきたのは、肩書きや国境の枠組みにとらわれない、一人の表現者としての生々しくも誠実な肉声だった。
独占インタビュー:世界的ヒット作の先に見据える「表現者としての現在地」

「以前は、作品ごとに『何か爪痕を残さなければ』と肩に力が入っていた時期もありました。でも今は、画面の中で自分がどう生きているか、その生々しさだけを大切にしたいんです」
落ち着いたトーンでそう切り出した坂口健太郎。国内外のボーダーが薄れ、作品が瞬時に世界中へ届くようになった現在、彼が立つ場所は確実に変化している。しかし、当の本人は至って自然体だ。名声や数字のプレッシャーに振り回されることなく、ただひたすらに目の前の役柄と対話し、現場の空気を吸い込むことに集中しているという。
「世界中に届くからといって、演じるアプローチを大げさに変えることはありません。むしろ、より細やかな感情の機微、小さな息遣いこそが、言葉の壁を越えて伝わるのだと実感しています。世界を意識するほど、原点にあるシンプルな人間の感情に立ち返る感覚があるんです」
言葉の壁を溶かした『愛のあとにくるもの』――日韓共同制作で直面した役作りの葛藤

彼の国際的な広がりを象徴する作品の一つが、韓国の配信プラットフォームCoupang Playで大きな反響を呼んだ『愛のあとにくるもの』だ。日韓のスタッフとキャストが入り混じる現場は、刺激的であると同時に、これまでにない挑戦の連続だった。
「セリフのイントネーションや細かなニュアンスが母国語とは異なる環境で、どうやって感情を嘘なく届けるか。最初の頃は正直、迷いや葛藤もありました。でも、相手の目を見て呼吸を合わせていると、言葉を超えて心が通じ合う瞬間が必ず訪れるんです。イ・セヨンさんはじめ共演者やスタッフの熱量に引っ張られ、演技とは理屈ではなく“相手への敬意と対話”なのだと改めて叩き込まれました」
切ないロマンスドラマとしての完成度の高さはもちろんのこと、文化の違いを乗り越えて築き上げた信頼関係が、画面越しにも濃密な余韻となって伝わってくる。異国の現場で孤独と向き合いながら紡ぎ出した表現は、俳優としての筋肉を一段と逞しく鍛え上げた。
喪失と再生を紡ぐ『さよならのつづき』とNetflixが拓いた新境地

グローバル展開という文脈において、Netflixシリーズ『さよならのつづき』への出演もまた、彼のキャリアに新たな奥行きをもたらした。事故で最愛の恋人を失ったヒロインと、その恋人の心臓を移植されて生き延びた男。過酷な運命に翻弄される男女を描いた本格ヒューマンドラマだ。
「他人の記憶や心臓を受け継ぐという設定は、一歩間違えればフィクションの嘘が浮いてしまう難しさがありました。だからこそ、身体的な違和感や、ふとした瞬間に込み上げる感情の揺らぎを、徹底してリアルに落とし込む作業を重ねました。北海道の雄大なロケーションにも助けられましたね。冷たい風や匂いが、役の孤独感を自然と引き出してくれたように思います」
単なるロマンスドラマの枠に収まらない、人間の生死と運命の残酷さ、そして再生の温もり。世界基準のクオリティを誇る映像美の中で、坂口が見せた繊細な揺らぎは、国内外の視聴者の心を深く揺さぶった。
『MEN'S NON-NO』から実力派へ――日本の映画とテレビドラマで培った芯
彼の原点を振り返れば、雑誌『MEN'S NON-NO』の専属モデル時代に行き着く。独自の透明感と存在感で一時代を築き、俳優へと舵を切った。所属事務所であるトライストーン・エンタテイメントで先輩俳優たちの背中を追いながら、日本の映画や数々のテレビドラマで地道に役幅を広げてきた歴史がある。
転機となった大ヒット作『余命10年』をはじめ、重厚な群像劇から軽妙な会話劇まで、彼が積み上げてきたフィルモグラフィは実に多彩だ。
「モデル時代の経験は、空間の中に自分がどう立つべきかという身体感覚を教えてくれました。そして、日本の現場で鍛えられた泥臭い芝居作りの日々が、今の僕の土台になっています。どんなに華やかなスポットライトを浴びても、現場で汗を流してスタッフと一緒にワンカットを積み上げる地道さだけは、絶対に忘れたくありません」
感情の余白を信じる――ヒューマンドラマを支える独自の演技論
坂口健太郎の芝居を観ていて強く惹きつけられるのは、その「引き算の美学」だ。すべてをセリフや表情で説明し尽くすのではなく、あえて語らない空白を作ることで、観客の想像力を刺激する。
「セリフとセリフのあいだにある沈黙こそが、一番雄弁だったりしますよね。悲しいときに泣くだけが感情の表出ではないし、嬉しいときに笑うだけが喜びではない。複雑で割り切れない感情をそのまま差し出せる俳優でありたいんです。観てくださる方が自分の人生を重ねられるような“余白”を残すことを、いつも意識しています」
彼が紡ぎ出すヒューマンドラマが常に普遍的な説得力を持つ理由は、まさにこの人間観の深さにある。作為を削ぎ落とし、ただそこに存在する。その難しさと静かに向き合い続けている。
「予定調和を壊したい」――坂口健太郎が語るこれからの挑戦
30代を迎え、俳優として円熟味を増しつつある坂口健太郎。しかし、その瞳に宿る冒険心は衰えるどころか、ますます輝きを増している。
「安心できる場所にとどまるのは心地いいけれど、それだと表現が小さくまとまってしまう気がするんです。『この役は坂口健太郎には無理だろう』と思われるような、ダークな役柄や予測不能な物語にもどんどん飛び込んでいきたい。失敗を恐れずに予定調和を壊し続けること。それが今の僕にとって一番のモチベーションです」
しなやかな柔軟性と、決して揺るがない表現への渇望。境界線を軽やかに飛び越えながら進化を続ける彼の旅路は、まだ始まったばかりだ。 (出典: 坂口 健太郎 インタビュー(Yahoo!ニュース))